煮干し

今から30数年前、まだ社会的に介護という概念がなかった頃。
一応、老衰という名で臥せっていたおばあちゃんが食べるものは
夏は桃、冬は煮干しで出汁をとった何らかのおつゆが主でした。
もちろん普通の食事もしていたけれど、そんなに量を食べるでなし
普段から粗食な明治生まれでしたから質素なものでした。
面倒をみていたおばちゃん(娘)はいろいろ作ってくれてましたが
当の本人が食べないものだから、なんとか食べたいものを、となると
上記のようなものばかりになる始末。
それでもゆっくりと美味しそうに食べていました。
やがて、食欲もなくなり、本格的に寝たきりになり始めた頃
おばあちゃんは煮干に酢をかけて、それをおかずにしていました。
そういえば、夏の暑い時期とかにこれをやっていたなぁと思い
食欲がなくても食べたくなる味なのかなぁと私も食べてみることに。
すっっっっっっっっぱ!
確かに煮干は柔らかくなり、おばあちゃんは少し醤油を垂らしていたけど
一口でむせかえるほど酸っぱい。
でも、おばあちゃんはそれがとても好きでした。桃の次に。
そのうちに枯れるように亡くなってしまったおばあちゃん。
今、推奨され始めている自然死というもの体現した形でしたね。
で、今日、愛犬のための煮干を買ったのですが、これ普通に人間用です。
煮干も塩分が含まれているので、無添加のものを購入しましたが
その袋にこう書いてありました。
『にぼしに酢や甘酢をかけるとカルシウムの消化吸収が促進されます』
そうだったの?知りませんでしたっ!
まさかおばあちゃんにそんな概念があったとは思えませんが
なるほど、昔の人の知恵ってやつなんでしょうかね。
たしかに焼かれて出てきたおばあちゃんのお骨は立派だったような記憶。
煮干についての思い出劇場でした。