1123(イイニイサン)その1

23日の夕方。突然、見知らぬ番号から携帯に電話。
一瞬戸惑ったが、きっと全く知らぬ人ではないだろうと思い、出てみた。
「たえ、たすけて〜!」
なんだかくぐもってて聞こえにくい。一瞬、いたずら電話かと。
でも女性の声だし、私のことを「たえ」と呼ぶ人間は有史以前の人だけだ。
それにしても助けてとは穏やかでない。
「どうしたん?」と聞くと(このあたりでやっと声の主がわかりかけてきた)
「Mくんが死んでん」
は?聞き間違いかと思った。事故したとか、入院したとか、倒れたとか。
「え?え?どういうこと」
「約束の時間になっても来うへんからHちゃんが見に行ったら布団の中で…」
泣き崩れながら喋る同級生。
「ほんで、みんなに連絡せなあかんのやけど、今からお通夜で出かけるとこやってん」
よっしゃ、わかった。私に連絡を回せということやな。任しとき!
…それよりアンタ大丈夫なんか。
「もう、なんか信じられへん。2日前、電話で喋ってたとこやってんで〜」
泣きながら、でも状況を私に伝えようとしてくれる同級生。
うん、わかったから。出掛けなあかんのやろ?大丈夫。全部やるから行っておいで。
「ごめん〜頼む〜」
そんな状況で。取り急ぎ、葬儀のもろもろを確認し、主要な人間に連絡を回す。
たしかその作業を始めたのが16時くらいだったけれど、気がつくと21時を回っていた。
たまたま夕食は前日からおでんを仕込んでいて手をかけなくてよかったから。
それにしても。
原因ははっきりしない。そんなことを聞ける状況になかった。
発見したのがたまたま約束していた同級生で、一応は救急車を呼んだそうだが
Mくんは独り暮らしだから死んでいたとなると当然のことながら警察の検視が入る。
連絡を回す役目になったのは夏の同窓会で私が全員の名簿を預かったからだろう。
人間って不思議だなと思う。
かなりの衝撃を全員が受けたはず。特に当事者は。
それでも冷静にやらねばならないことを進めていけるというのは、一旦、気持ちに
蓋をしている状態であるのだろうか。
聞いただけの人間は信じられない思いが強いだけだが、発見した同級生なんかは
一番近いところにいたのに悲しむより先にいろいろな段取りをしなければいけなかった。
でもMくんにしてみればこういう形になることは半ば予測のうちだったのかも。
その意味では同級生が発見者で本当に良かったと思うし、なにより、その日に
そうやって予定を入れていたこと自体、結果、発見が早かったわけだし。
彼の状況を考えると孤独死もあながち遠くはなかったから。
慌ただしいけれど翌日がお通夜であった。