空へ

7月30日、夕刻。着信が入っているのに気が付く。イズミからだ。
それも携帯とLINEとに。珍しい。よほどの急用なんだろうか。
すぐに折り返し電話をする。「もひもひぃ〜?」と電話をしてみるも
「あぁ」と言ったきりくぐもって何を言っているのか聴こえない。
「・・・が・・・った」「へ?なんて?」「まーみが、亡くなった」
一瞬、自分がどこにいて、何をしているのかわからなくなるほどに真っ白になった。
ネットを通じて仲良くなったりんちぇ迷(リー・リンチェイファン)の仲間。
かつて熱かった迷の輪は、それこそ全国に広がっていたが、中でも毒舌をもってして
愛情を表すことの多い関西迷の中で、何かというと采配を振るっていた彼女。
イズミとはプライベートでも仲が良かった彼女。眞由美を自らまーみと名乗った彼女。
子宮頸がんが見つかり、入退院を繰り返すも甲斐なく、ついに。
でも、早すぎる。
わざわざ言葉には出さないけれど、イズミも私も彼女がそう遠くない時期に旅立つ事は
わかっていた、はずだった。
でも早すぎる。いくらなんでも。
まだ春浅い時期にイズミと二人で某神社のお守りをもらいに行き、その足で見舞った。
彼女は放射線治療の真っ最中。まったく食欲がないらしい時期でずいぶん痩せていた。
「これで人並みだけどね〜」と自虐的にカラカラ笑っていたっけ。
それでも、なんというか、話の接ぎ穂がうまく見つけられずに苦心した気がする。
何を言っても白々しく聞こえやしないか、と。
その空気を読んだかして、自分の闘病の様をつぶさに語って聞かせてくれていた。
私は「それはしんどいね」とか「大変すぎるね」とか、バカみたいな相槌しか
打てなかった。
その後、何度かメールでもやり取りをし、しょっちゅうはいけないけどまた行くね、と
毎度々々同じ結びの言葉しか見つけられずにいたのだったが。
その約束を果たす間もなく。
6月の初めに「今、退院して家に帰ってきてる。元気だから心配しないでね」と。
結局は、その時のやりとりが最後になってしまった。
ぱらぱらとめくるだけでいい、クスッと笑える写真集を贈るつもりでいたのに。
1日に執り行われたお通夜に参列させてもらった。
特に宗教的な儀式はなく、本当に「お別れ会」と銘打ったそのものの式だった。
いつも遊んでいた迷たちは、都合が悪い人を除いてほとんど集合した。
その人達とも会うのはとても久しぶりなので、嬉しかったが、喜べない。
皆一様に沈痛な面持ちで、それでも時折笑い声が漏れるけれども誰もが傷んでいる。
会場につくまで分かれて乗車したタクシー内でも「びっくりしたなぁ」としか
言葉が出てこなかった。
「なんか、現実味が全くないねん」と言うと、「私も」「ほんまに」と声が上がる。
きっと、みんななんだか狐につままれたような心持であるのだろう。
会場に行くと、パフェを目の前にしてニヤリと笑ういつも通りのまーみちゃんがいた。
全員、それを目にした途端に涙。一気に現実味が増す。でも嘘みたいだ。
堅苦しいことは一切抜きに、お別れ会は粛々と進む。
まーみちゃんおご主人と会うのはこれが初めてだ。
確か、姪御さんは一度うちの舞台を観にきてくれたのではなかったか。
ご主人のご挨拶があった後、献花をし、お顔を拝ませてもらう。
まーみちゃん。早すぎるよ。でもこれで苦しみからは解放されたよね。よく頑張ったね。
心の中で問いかけつつ、こんなプラスチックのカバー越しじゃなく頬に触れたいのに。
そこに横たわっているのはまーみちゃんではない、まーみちゃんのかつての乗り物だ。
まーみちゃん、うちにも来てくれた?お別れの挨拶をしに来てくれてた?
全然、気づかなかったよ。ごめんね。
でも、まーみちゃん、もう痛くないね。それだけは本当によかったね。
今、彼女は自由を取り戻し、やりたかったことを楽しんでいるのかな。
それとも、こうして想いを馳せる私達を高いところから見つめているだろうか。
こうして書きながらも私は未だに現実感ゼロのままだ。