旅情を味わう

神苦楽島〈上〉

神苦楽島〈上〉

神苦楽島〈下〉

神苦楽島〈下〉

軽井沢のセンセこと内田康夫氏のもの。今回の舞台は淡路島。
センセの小説の、おもに主人公を務める浅見光彦氏は永遠の33歳。
時代は進むが浅見さんは33歳のままなのでずいぶん前の作品と最近の作品では
歴史に対する認識が浅見さんから見て少し違ったりするが余り違和感を感じない。
感じないがバカボンのパパが41歳の軸になるように読者の側だけが歳をとる。
でも当初から自分の中の浅見像と自分の関係というのは変化しないので面白い。
しかし時代は移り変わるもので、この本で浅見さんは遂に携帯キャリアとなる。
このあたり浅見ファンには「ほぉ〜遂にか!」と感慨深いポイント。
知らない人にはなんのこっちゃでしょうが。
基本、探偵もの、いわゆるミステリーなのだがセンセの場合は人間の心の機微が
軸になっているので、事件が解決してしまうと割に軽く感じてしまう。
う〜ん、この記述では伝わらないかもしれないなぁ。
結局、犯罪動機になるものが個人的なものに根ざしていたり
それが例え義憤に駆られ、大いに大義名分があったとしても犯罪の末端は
実に人間的なエゴと利己心みたいなものに帰結するので、という意味ですが。
内田氏の手法として、日本各地(時折、海外進出も)を舞台にしているため
自ずと観光ガイド的なものになったりもするし、センセの思惑通り
地方を舞台にする時には地元の新聞社から原稿の依頼が来たりもする。
今回のはどうだったのかな?でも毎回かなり細密にロケをされているようで、
行ったことがなくても行った気になるように風景そのものが目に浮かぶのが
氏の表現のすごいところだと思う。
たまに知っている場所が出てきたら、それはそれでこちらに土地勘があるので
想像しながら楽しめるという一粒で何度も美味しい小説なんだな、私にとっては。