私的歴史の証

左手の手のひらど真ん中に黒いものがある。
昔々のその昔、当時はやっていた収納する部分がミサイル台のようになる
筆箱から鉛筆を取り出そうとしてブスッといってしまったヤツだ。
血も出たと思う。あんまり覚えていない。痛かったはずだけど。
とにかくささった。びっくりした。
でも出血しなかったのか、保健室に行った覚えはない。
家に帰って消毒したかすらも覚えてない。
きっとアホなのだ。昔のことはすべて霞の中のことのよう。
でも当時、翌日から黒い点が手のひらのど真ん中にできたなぁって
しげしげと眺めていた光景だけははっきりと覚えている。
それから、しばらくして黒い点は何故か青黒くなっていき
でもホクロとは少し違う主張をしていた。手のひらのど真ん中で。
不思議とそれを見ると「自分」の実感があった。
自分の、自分にだけある、自分がやった傷として。
けれどいつの間にか鮮明だったそれは分厚くなっていった手の皮膚に
覆い隠されるように奥へ、奥へと追いやられており
今ではあることを知っていると見つけられるけど
普通に見たくらいではわからないようにまでなってしまった。
過去は遠い。
でも、ほじくりかえせばその穴の周辺は黒く染まっているだろう。
確かな証拠、というか歴史というか。
ちゃんとしたものが残っているか残っていないかは難しくて大変だ。
どこに歴史の真実はあるんだろう、とニュースの暴動を見て思う日。
確かなものはどこにあるんだろうねぇ。
そして、ブツが残っていてもそれが真実とは限らないねぇ。
ならば新しい知恵でもって作っていくしかないんじゃないのかしらねぇ。